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【感染免疫の立場から】
風邪の症状に当てはめてみますと、くしゃみ・鼻水・咳は、空気の通路から病原体を追い出す免疫反応。嘔吐・下痢は消化管から病原体を追い出す免疫反応です。
発熱は、気道や消化管で増えすぎた病原体が血液へ侵入しないように防ぐ免疫反応です。
これ、すべて「病原体を追い出すための、根治療法としての免疫反応」です。
自分自身のカラダ自らが生み出す最高の治療法です。
逆に風邪薬は、病原体を追い出すこうした自然の免疫反応を邪魔していることになります。
物凄く極端に言うと、くしゃみ・鼻水止めは、副鼻腔炎や中耳炎を引き起こし、咳止めは気管支炎・肺炎を誘発し、吐き気止めは、胃が処理していない病原体を無防備な腸に流し込んで腸炎を誘導し、下痢止めは、腸内に病原体を貯めて、腸炎を増悪させ、解熱剤は、病原体を血液に侵入させ、中枢神経感染症のリスクを高めます。
ここで
「空気と接触しているところは全て体の外」」
「空気と接触していないところが体の中」
と定義すると、
口の中、胃の中、腸の中、と言っても、空気と接触しているので、全て「体の外」になります。厳密な意味での「体の中」は「血管内」です。血管内に病原体が入れば、血流に乗って全身に拡大します。
体の免疫反応の第一段階は病原体を体の「外」に保つ、あるいは除外すろことです。
くしゃみ、鼻水、咳、嘔吐、下痢は、第一段階の免疫反応です。
そして、体の免疫反応の第二段階では病原体の体の「外」から「中」への侵入を防ぎます。発熱は、この第二段階に限って出現します。
したがって、発熱は、どんなに軽くても、最高レベルの警戒警報に相当します。
可及的に病原体が過剰増殖している部位を特定して、処置しなければなりません。
実際は、仕事、学校、受験、競技会、等々、やむを得ず、薬で症状を無理やり抑え付けざるを得ない場合もあります。しかし、解熱剤等で事なきを得た経験を過信することはできません。
体の免疫に余裕があれば大事に至りませんが、乳幼児や高齢者など、免疫に余裕があまりない場合、一気に、病原体を増やして重症化する危険が潜んでいます。
薬で症状をとる、楽になる、その代償は結構大きいものになります。すなわち、体の免疫系に病原体の過剰な負担を掛けて不必要な自己犠牲を強いてしまいます。
日常的に、病原体の侵入を受けている気道や消化管の粘膜組織は、くしゃみ、鼻水、咳、嘔吐、下痢で懸命に応戦して、病原体を完全に「体の外」に「土俵の外」に「寄り切ろう」「押し出そう」最悪でも「うっちゃろう」と頑張っています。しかし、風邪薬にことごとく邪魔されて、病原体まみれにされ、死んで行きます。
特に、流行が近づいているインフルエンザでは、ウイルスの増殖が激しいので気道や消化管などの粘膜細胞は高率に感染を受けます。
一旦、感染を受けた細胞は、周囲の未感染細胞に感染が及ばないように、自己誘発的に、あるいは、細胞障害性T細胞の介錯を受けて、自害して行きます(アポトーシス)。特に、消化管の粘膜細胞は、たとえ、風邪症状がない時でも、1週間にその1/3が入れ替わっています。
これは自己犠牲と云わざるを得ません。
私たちの命は、私たちを構成している無数の名もない細胞の命の自己犠牲の上に成り立っています。そして、その自己犠牲を少なくすることが私たちの役目です。
その感染免疫学的基本は『病原体の負荷を最小限にとどめる』ことに尽きます。
必要最小限の自己犠牲は止むを得ませんが、不必要な自己犠牲は間違いで、自分の体を、そして命を疎かにしていることになります。
安易に薬に頼って、一見、楽になることで、薬に依存してしまうと病原体の負荷を増やすと同時に、自己犠牲も増やし、体の免疫の本来の大切な働きに気づくのがますます難しくなってしまいます。
インフルエンザに対する抗ウイルス剤が開発されたのは進歩ではありますが、「とにかく治ればそれで良い」と薬に依存してしまい、体の本来の免疫を見直して改善保全する機会を失わせている現状は不幸と云えます。
実際、感染したインフルエンザウイルスの大部分を処理しているのは、薬ではなく、体の免疫です。
あくまで『病原体の侵入を最小限に、病原体の排泄を最大限に』そのために、風邪にかかって慌てるのではなく日常的に、鼻炎副鼻腔炎の予防、便秘の予防に努めることが大切と思われます。
■この記事の作者
医)操南ファミリークリニック / 横山俊之 院長
医学博士/日本小児科学会専門医/日本小児感染症学会会員
日本臨床ウイルス学会会員/国際サイトカイン会議会員
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